なんでやねん日記

なんでやねんです

予定外のキーマカレー

その日は、前日の夜寝床に横たわったときからキーマカレーを作ろうと決めていた。

その日は、週に一度の食材を買い足しに行く日。冷蔵庫に残っている食材たちに、何を足せば効率よく食事のローテーションが組めるか、数日前からぼんやり考え始め、当日の朝に買うものをメモしてスーパーへ行く。

前述の通り、その日はキーマカレーを作るつもりだった。夕飯と、次の日のお弁当にしようと考えていた。玉ねぎと大蒜はたくさん余っている、生姜もあるから入れてしまおう。トマトピューレを買うつもりだったけれど、冷蔵庫のプチトマトが少し傷んできたから刻んで使おう。白菜が安い、朝食用にバナナとヨーグルトも買わなくちゃ、あ、豚もも薄切りが安いから、生姜焼きの下味を付けて冷凍しておこう。しばらくはこれで過ごせそう。帰宅して、さあカレーを作ろうとエプロンの紐を締めたところで、キーマカレーに使う挽肉を買い忘れたことに気付いて思わず声が漏れた。そもそも、メモにすら書き忘れていた。阿呆だ。

極度の面倒臭がりなので次の用事までは絶対に家を出たくない、でも一度決めたことは絶対完遂したい性分でもあるため、何が何でもキーマカレーは作りたい。
 
数分悩んでふと、買ってきた豚もも薄切りのことを思い出した。同時に、台所の棚に眠っているハンドブレンダーの存在も思い出した。
 
ハンドブレンダーは、引っ越す際にいただいた贈り物だった。ずっと欲しくて、でも踏ん切りがつかず買う機会を先送りにしていたものだったので、プレゼントとして手元にやってきたときはとても嬉しかった。
 
せっかくの贈り物なので、何か気合いの入った料理、パテやリエットなんかを作るときのために置いておこうと思い、しかしそんな気が起こることはなかった。
 
これでもも肉を挽肉にすればいいのではないだろうか。
 
一枚いちまい、規則正しくスライスされていたもも肉は、ほんの数秒でとても美しい挽肉に生まれ変わった。こんなに簡単に姿を変えるとは思わず、素直に驚いた。楽しくて仕方ないので、玉ねぎと大蒜と生姜もハンドブレンダーでみじん切りにした。
 
下拵えが一瞬で済んだおかげで、予定より早くキーマカレーが出来上がった。きちんと挽肉を買って帰ってきていたら、ハンドブレンダーはまだしばらく日の目を見なかったかもしれない。せっかく手元にあるのに、その便利さを知らないまま伝聞だけで便利な調理器具だと思い込んでいたかもしれない。
 
その日はキーマカレーを作った。予定外から生まれたそのキーマカレーは、普通の挽肉で作るより、何倍も美味しい気がした。