読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

なんでやねん日記

なんでやねんです

絶対少女

小学5年生の冬休み、従兄弟の車の中で流れた曲に、私は衝撃を受けた。電車もコンビニもない田舎で暮らし、山と川で遊んでいた子どもに、それまで知らなかった感情が芽生えた。「なあ、これなんて曲なん?」と聞いた私に、従兄弟は「椎名林檎の『歌舞伎町の女王』やで」と答えた。聞いたことがない単語の並びに、私はまた新しい衝撃を覚えた。カーオーディオから流れていたのは、「無罪モラトリアム」というアルバムだった。

私は、椎名林檎という女性シンガーにみるみるはまった。同じような田舎で育ったあと都会へ出て働く従兄弟に、祖父母の家で出会うたびにCDやライブDVDを借りた。CDラジカセの中から聞こえてくる彼女の声、テレビの画面に映し出される彼女の姿は、とても非現実的だった。父母からは狂った音楽を聞くようになったと嘆かれた。とりわけ、演歌で育ち歌謡曲を愛しフォークソングを奏でた父は、私がのめり込む音楽に対し信じられないといった表情で対峙していた。私は自分の部屋で1人こっそり、彼女の曲を聴くようになった。

どの曲も、どの曲も、見たことがない色で私の中を染めていった。音楽番組に出演した次の日は同級生が笑っていたけれど、気にならなかった。小さな社会で思春期を過ごすしかなかった私は、彼女が楽器と言葉で創りだす世界の中で、ずっと生きていた。

そして、大人といわれる年齢になった。

結局は生活する場所じゃなくて自分自身が人生を左右するのだと気付き、それでも何もできない自分にただただ呆然としながら毎日を過ごしていたとき、私は、YouTubeである女性シンガーのミュージックビデオを見ていた。今まで何度も聴いたことがあるアーティスト。映像には、今人気のアイドルが出演していた。イントロが流れ、彼女が歌い出したとき、あのときと同じような衝撃を受けた。

iTunesでアルバムをダウンロードし、パソコンにイヤフォンを繋いで、103.6MBの圧縮された音楽を聞いた。絶望や希望や薄情さや愛情、さまざまな感情が交じる歌声で、どす黒くてキラキラした言葉を音楽にしている。くそったれで美しいこの世を罵倒しながら愛してる。彼女を形容する言葉が見つからなくて、来る日も来る日も曲を聴く。感情が高まるばかりで、結局、言葉は見つからなかった。

ただただ、中学生のときに着ていた、黒のセーラー服が頭の中にずっと浮かんでいた。絶対少女。

絶対少女